『す、すいません、前通ります!』
ジィィ〜〜〜ッ・・・また走られてしまった・・・何度ラインを出しただろう・・・
10分くらい前に通りすがりに吸い込んでしまった異物から逃れようと、彼女は何度もスパートを繰り返す。右腕の筋肉が硬直し悲鳴をあげだした、そのとき最も気合いの入ったダッシュに反応できず、リールがバックラッシュを起こす!
とっさにスプールをはずし修復して弛んだラインを巻き取る。
『付いていてくれ・・・』祈るような気持ちで絆を張り詰めていくと彼女はまだそこにいた。
同時に強烈に横走りしていたのが、底へ突っ込む動きに変わってきている。
『取れるかもしれない・・・』ハリスが1.2号、チヌバリ2号の細仕掛けには手に余る大物だいうことは、ここまでのやり取りで納得していたが・・・ジジィ〜〜ッ・・・ラインが出る・・・少しずつ彼女との距離が近づいてきた。
いつのまにか、周辺の投竿を上げさせ岸壁を右往左往している男に何が起きているのかを見に、10人くらいの釣人が集まってきた。
やがて水面下に彼女の肢体がぼんやりと浮かび上がってくると『おおっ・・・』と感嘆の声があがる。『取りたい!』姿を見た瞬間、全身の細胞が脈打つような興奮を覚える。
さらに数分後、地元のベテラン氏のアシストで玉網に収まり岸壁に横たわった彼女は、陽光を浴びて白銀色に輝いていた。
鮮烈にして重厚、精悍にして妖艶な彼女に感動。
誰かがつぶやいた…
『海からのクリスマスプレゼントだね』 |